遺言書はメモ帳に書いても有効か?

せっかく遺言書を作成していても、相続人や関係者にその存在が知られなければ──その内容は執行されることなく、法定相続通りに進んでしまう可能性があります。

この記事では、
「遺言書が発見されなかった場合のリスク」

「確実に見つけてもらうための対策」
について解説します。


遺言書は“見つけられなければ”存在しないのと同じ

法的には、遺言書は被相続人の死亡と同時に効力を発生します(民法985条)。

しかし、それが見つからなければ実務上は存在しないのと同じで、遺言の内容は反映されません。

また、遺言執行者が指定されていても、執行者が相続開始(被相続人の死亡)を知らなければ何も始められません。誰かがその存在を伝えてはじめて執行されるのです。


遺言書の種類別に見る“発見リスク”

◉ 自筆証書遺言の場合

  • 自宅の引き出し・仏壇・貸金庫などに保管されたままのことが多い
  • 見つからなければそのまま埋もれてしまう
  • 発見されても「家庭裁判所での検認」が必要
  • 検認前に勝手に開封すると過料(5万円以下)を科されることも(民法1005条)

◉ 公正証書遺言の場合(安心度が高い)

  • 原本は公証役場で保管されている
  • 被相続人が亡くなった後、相続人や利害関係人が氏名・生年月日で検索し、謄本を請求できる
  • ただし、誰も調べなければやはり実行されない

◉ 秘密証書遺言(特殊ケース)

  • 内容を秘密にできるが、保管場所が分からないと“存在自体が永遠に不明”となる

遺言書が発見されない場合に起こる問題

問題 内容
法定相続で遺産が分割されてしまう → 後で遺言書が見つかっても、登記・名義変更のやり直しなどが必要になることも
遺贈の受取人が受け取れない → 遺言が実行されず、第三者が何も受け取れない
相続税申告がずれる → 遺言に沿わない内容で申告・納税される可能性がある

遺言書を見つけてもらうための対策

方法 内容
信頼できる人に遺言の存在を伝える → 相続人、親族、専門家に「遺言書がある」とメモだけでも知らせておく
公正証書遺言+遺言執行者の指定 → 公証役場に保管され、執行者がいれば確実に内容が実行される
エンディングノートや保管場所の明示 → 遺言書の存在や場所を明記しておくことで発見率が高まる
執行者への事前通知・役割確認 「万が一の際には〇〇さん(執行者)に連絡を」と家族間で共有しておく

執行者がいても“知らせなければ動けない”

行政書士や弁護士などを遺言執行者として指定していても、相続人や親族から「亡くなった旨と遺言執行の依頼」がなければ、執行者は動けません。

そのため、遺言書を作成する際には、以下の3点を最低限誰かに伝えておく必要があります

  1. 遺言書を作成した事実
  2. その遺言が公正証書遺言である旨(保管先が公証役場であること)
  3. 遺言執行者を指定している場合は、その人の氏名と連絡先

これらを家族や信頼できる第三者に伝えておくことで、いざというときに遺言がきちんと実行され、トラブルを防ぐことができます。


まとめ

遺言書は“作って終わり”ではありません。
確実に発見され、かつ執行者に連絡が届いて実行されてこそ意味があります。

特に自筆証書遺言は埋もれるリスクが高く、また執行者がいても通知されなければ動けないため、

「公正証書遺言+遺言執行者の指定+家族への周知」のセットが、円満な相続のための最善策といえるでしょう。


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「遺言書って、ただ紙に書くだけでいいんですか?」

このような質問を受けることは少なくありません。

身近な人の死や、ご自身の今後を考える中で、ふと「自分の財産や気持ちをどう伝えておくべきか」と思い立ったとき、
多くの人が一番手軽な方法として思いつくのが「とりあえず紙に書いておこう」という行為です。

では、それが果たして法的に有効な「遺言書」になるのか?

という点について、今回は詳しくご説明します。

自筆証書遺言とは

遺言書の形式の一つに「自筆証書遺言」があります。

これは文字通り、全文・日付・氏名を自筆で書き、押印することで成立する遺言書です。

つまり、形式をきちんと満たしていれば、メモ帳に書いたものでも有効になる可能性はあります。

ただし、実際には「メモ帳に書いて有効」と言えるケースは、非常に限定的です。

次の条件をすべて満たしている必要があります。

  • 全文を自筆で書いていること(パソコンや代筆は不可)
  • 日付が明確に記載されていること(例:「令和7年7月17日」)
  • 氏名が記載されていること(署名)
  • 押印されていること(実印が望ましい)

一つでも欠けていれば、原則として遺言書としての効力は認められません。
ただし、すべての要件を満たしていれば、たとえメモ帳に書かれたものであっても、法律上有効な遺言書として認められることがあります。

よくある無効事例

メモ帳に書いた遺言書が無効とされる事例は少なくありません。たとえば、次のようなものがあります。

  • 「財産は長男に全部任せます」とだけ書いてあり、署名も日付も押印もなかった
  • メールやLINEメッセージなど、電子的に残されていた文章
  • 本人が書いたことは間違いないが、内容があいまいで誰に何を渡すのかが明確でない

これらは、たとえ本人の意思で書かれたものであっても、法律上の遺言書とは認められません。

メモ帳遺言の注意点

紙に書けばよい、という単純な話ではないということです。
特に問題になるのが次の2点です。

①  発見されない可能性

遺言書を作成しても、誰にも伝えていなければ、死後に見つけられずにそのまま処分されてしまうリスクがあります。

② 検認手続きが必要

自筆証書遺言は、家庭裁判所での「検認」という手続きを経なければ使えません。これには時間と手間がかかります。

書式よりも「内容の明確さ」が大切

遺言書の価値は、「書いたかどうか」だけでなく、「内容が明確で、誤解の余地がないか」にあります。

たとえば「妻に全部の財産を相続させる」と書いたつもりでも、
実際には不動産や預金の名義、遺留分との関係など、
詳細が整理されていなければ相続人間で争いの火種になる可能性があります。

「気持ちは伝わるだろう」と思っていても、法的な手続きの場では“伝わらない”ことが多い
という現実を、冷静に見ておく必要があります。

まとめ

メモ帳に書いた遺言でも、一定の要件を満たしていれば有効になる可能性はあります。

ただし、現実には無効になる例が多く、また形式要件を満たしていたとしても
「発見されない」
「検認に時間がかかる」
「内容が不明確」
といった問題がつきまといます。

遺言書を書くという行為は、単に紙に書くだけではなく、自分の意思を確実に、誤解なく、後に遺すための準備です。

メモ帳に気持ちを書くことは悪いことではありませんが、それがそのまま“遺言”としての役割を果たすかは、慎重な判断が求められます。

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